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岡山大学 低炭素・廃棄物循環研究センター

〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1

RESULT

現地視察

2022年4月にプロジェクトメンバーが調査対象であったチュノックトゥル村を視察しました。岡山大学ではこれまでにチュノックトゥル村を対象とした調査活動をしていたのですが, コンポンチュナン州が水上集落の住民を陸上へ移住させる政策を進めているため水上人口が減っていました。そこで対象地の再考が必要となり,コンポントム州のパットサインディ村を視察しました。 コンポントム州には移住計画はなくパットサインディ村はこれからも存続することから,プラスチックごみの分別が必要と判断しました。
パットサンディ村では,5つの住宅ブロック(小村)が集まったコミューンの形態をとっています。そして,各村からの代表者と漁業組合からの代表者が集まってコミューン自治会を組織し,村の管理運営を行っています。ヒアリングすると,村には これまでに幾つかの環境NGO団体が入って,環境改善の活動を行ってきたそうです。例えば,ごみ分別に関してはあるNGOがごみ分別用のボックスを多数村に寄付しましたが,多くは保管室に収蔵されたままでした。また小型焼却炉の寄付もありましたが,故障のためか今は動いていないということでした。水に関しては凝集剤を用いて湖水の濁度成分を除去する浄水プラントが寄贈されていましたが,このプラントも全く動いていませんでした。 設備が寄贈されても,いったん故障すると修理する人がいなかったり,使用を続けるために消耗品を購入しなければならないと,持続は難しいです。金銭的にも労力的にも無理のない活動であるとか,活動すれば何か見返り(インセンティブ)があるとか,村の活動として全員が従うようにするとかの条件が必要かもしれません。 本プロジェクトでは,村が決めて村全体で分別・リサイクルを行う「市民参加型」に持ってゆくことが望まれます。

 
     パットサンディ村の住宅1                   パットサンディ村の住宅2
 
     パットサンディ村の小学校                   釣りの仕事をする主婦たち
 
     資源ごみ収集人へのインタビュー             コミューン代表者たちへの事業説明

インタビュー調査

パットサンディ村の25人の家庭にヒアリング調査を行いました。雨季に有機ごみ(生ごみなど)もプラスチックごみも湖に廃棄する割合が増えることがわかりました。使ったプラスチックを保管しておく割合も雨季で若干増えています。一方,乾季には陸地が現れるので埋めたり燃やしたりする割合が高くなっています。小学校の教員へのヒアリングでも,校庭のある場所にプラスチックごみ置場を作って,集まったプラスチックごみを燃やしているとのことでした。また,PETボトルを釣り網の「浮き」に使用する人も居ます。釣りシーズンにはPETボトルの引取価格が上昇するので,それまでボトルを集めている家もあります。使ったあとに保管したプラスチックもいずれ捨てることになります。プラスチックごみの行き場は,湖に捨てるか,陸地に埋めるか,燃やすか,リサイクルするかのいずれかです。プラスチックごみを野焼きするのは,燃焼ガスが発生するので推奨できません。プラスチックは微生物によって分解されにくく,埋めると寿命が長いもので数百年に存在すると思われます。雨季に水没するような場所に埋めると,この先に埋めていたプラスチックごみが水中に出てゆく可能性があります。やはり使ったプラスチックはリサイクルすることが,適切な方法だと思われます。


乾季のごみ種類別処理状況(TSLはトンレサップ湖)

雨季のごみごみ種類別処理状況(TSLはトンレサップ湖)

排出量・組成分析

2022年9月にプラスチックごみの組成調査を行いました。パットサンディ村は5つの村が集まったコミューンであり,その中の11世帯にお願いして1週間分のごみを集めてもらいました。白と黒のごみ袋を用意し,生ごみ以外のものを2つの袋に分けて入れて欲しいと言いました。白袋にはプラスチックごみと認識できたものを入れてもらい,黒袋にはそれ以外でかつ生ごみ以外のものを入れてもらいました。 1週間後,それらの袋を集めて,袋のごみ重量と組成別の重量を測定しました。プラスチックごみには多くの種類がありますが,ここでの区分は分類しやすい,1)プラスチックのボトル,2)フィルム状のもの(袋,コンテナ,飲み物カップ),3)堅いプラスチック(樹脂,塩ビなど),4)発泡プラスチックの4種類としました。

Sorting method Composition survey

分析の結果,世帯あたりの平均1日プラスチック排出量は270gとなり、その中でリサイクル可能なプラスチック排出量は135gでした。

資源化ルートの調査

パットサンディ村では個人経営の資源ごみ収集人(コレクター)が村をまわって缶やPETボトルをを買い取り,コレクターが集めたごみをチュノックトルゥ村の資源ごみ卸売業者(ジャンクショップ)が買い取り,それらを多量に集めてから圧縮や梱包をして,リサイクル工場などの大型需要家に卸しています。運送はジャンクショップが大型トラックで客先まで輸送したり,客が逆に取りに来たりするそうです。チュノックトゥル村のジャンクショップに聞くと,お客は隣国のベトナムやタイから大型トラックで買いつけに来るようしたが,カンボジア内のお客はないとのことでした。 資源ごみが国境を越えて運ぶとコストがかかるため,その買取価格は安くなります。そのため,PETボトル以外のプラスチックごみは値が付かない(価値がない)ということでした。2022年6月の調査では,ジャンクショップがコレクターからPETボトルを買取るときの価格が100本の当たり0.5USドル程度でした。 2023年6月にコンポンチュナン市のジャンクショップを訪問して価格を聞いたところもっと良い値段での引き取りが可能であること,ボトル内をきれいにしフィルムも剥がすとより高い値段で取引してもらえることがわかりました。(後述)

PETボトル分別収集のフィージビリティスタディ

ベースライン調査をもとにして,PETボトルの分別収集のシミュレーションを行いました。ベースライン調査からは,1世帯の1日当たりのペットボトル発生量(3本/1日)を,アンケート調査より分別協力率を60%,ジャンクショップの買取価格を0.5USドル/100本としました。収集距離はGoogle Mapを使って現地の写真から1軒1軒ボートで取りに行く場合の距離と,集めたごみをチュノックトゥル村のジャンクショップまで輸送する距離を求めました。 コレクターを時間給で雇い,収集のためのガソリン消費量を考慮してシミュレーションを行った結果,村民に還元されるお金は,村民がPETボトルを直接ジャンクショップへ売った時のお金に比べて少ないことががわかりました。(ただし,村民がボートで売りに行く費用は考慮していません) これでは村民が不満を持つことから,村全体が分別すればきれいなPETボトルが多く集まることを主張してジャンクショップに高くで買い取ってもらうことが必要になります。ほぼ,倍の買取価格を目安に村の代表が交渉するべきと結論づけました。しかし,結局はコミューン代表者の意見で,収益はコミューンが管理し村の行事などに使用することになりました。


          Google Mapより抽出したごみ収集経路と収集したごみの輸送経路

啓発資料の作成

村全体でPETボトルの分別・リサイクルを行う必要があり,村民を教育啓発をするための冊子(8頁もの)を作成した。プラスチックの知識として,それが石油から作られること, プラスチックの寿命が種類によって違うが微生物が分解するために必要な年月は50年〜650年と長いことを示しました。プラスチックの寿命は人の寿命よりもはるかに長く,プラスチックごみを湖に捨てると,その処理の責任を後の世代に押し付けることになります。 プラスチックの使用者はそのことを考えて湖に捨てないようにしなければならないと説いています。さらに,PETボトルを分別するときのマナーとして,キャップはとり,中身を捨ててゆすぎ,圧縮することの説明や,ボートでの集め方,売却利益の管理,分別開始の予定などを記述しています。 以上を大人用のマニュアルとし,子供用にマンガを挿入した分かりやすい冊子を作成中である。次の世代が子供のときから分別・リサイクルの知識を持つことが必要であり,小学校の教材として使ってもらうことを目標としています。

分別推進チーム研修

村の中でリーダーとしてプラスチックの分別・リサイクルを積極的に進めてくれる分別推進チームを募りました。村の代表者にチーム結成をお願いしたところ,メンバーにはおなじみのコミューン代表者たちのお名前がありました。若いバイタリティのある方を想定していたのですが比較的年齢層の高いチームとなりました。この理由ですが,プラスチックごみの分別が村にとって関心のある案件であり村の責任者が対応しなければならないということが後で分かりました。 計画では,分b熱推進チームを日本(岡山市)に招聘し,われわれの慣れ親しんでいるごみ分別や,プラスチックリサイクル技術を見てもらおうと考えていたのですが,分別推進チームのメンバーすべてにパスポートやビザをとってもらうことがとても難しいことが分かりました。そのため,本邦研修は諦めてカンボジア国内での研修に切り替えました。
現地研修は,2023年5月30日〜6月2日の4日間行われ,分別推進チームメンバー7人,NGOのiDEメンバー2人,岡山大学3人,王立プノンペン大学2人,環境省アシスタント1人が参加しました。研修の内容と成果を時系列で以下に述べます。

[顔合わせ,研修目的の確認,NGO iDEの活動紹介]

コンポンチュナン市の会場でメンバーとスタッフの顔合わせ,研修目的の確認,NGO iDEによる活動紹介を行ない,研修のプログラムについて説明を行いました。

[ジャンクショップへのインタビュー]

コンポンチュナン市にある3つのジャンクショップ(卸売店)を訪問し,プラスチックリサイクルに関するヒアリングを行いました。PETボトルの引取価格はチュノックトゥル村のジャンクショップよりも高いことが分かりました。また,ある店ではきれいなPETボトルでフィルムも除去されていると,さらに高い価格で引き取ってくれることが分かりました。一方,プラ袋等は有価では買い取れないですが,無料では引き取ってくれることが分かりました。分別推進チームメンバーは全員が熱心にヒアリングに参加していました。


ジャンクショップオーナの話しに熱心に聞き入るメンバー

[コンポンチュナン市の最終処分場の視察]

コンポンチュナン市にある現在使用中の最終処分場と,新たに建設した最終処分場を視察しました。旧来の最終処分場ではプラスチックごみが際立って多く見られ,排出量が多いことが分かりました。処分場から有価物を回収するスカベンジャーが多く入り,子供たちも親の手伝いをしていました。市ではスカベンジャーが入ることを止めてはいないということでした。また多くの牛が処分場内で飼われていました。 資源化できるプラスチックは集められて袋に詰められていたり,積み上げられ雨さらされるようにしてありました。有価物を回収した後にスカベンジャーはごみに火をつけて,表面にある主にプラスチックのごみを焼いていました。理由を聞くと,表面にあるプラスチックの容積を減らすためということでした。一方,新しい最終処分場は建設されたばかりで,まだ埋立ては行われていませんでした。排水を集めて酸化地であるていど浄化する設計になっていました。
   
      集められていたPETボトル              集められたプラスチック袋
   
        牛が食べ物を探す          プラスチックごみを減らすために焼却

[ポーサット州ルーン村でのオープンなPETボトル収集の視察]

ポーサット州ルーン村でのNGOのiDEによるPETボトル収集活動を視察した。iDEはボートの上にPETボトルの大型ボックスを設置し,それを小学校ボートの横に係留しており,子供たちが家からプラスチックを運び大型ボックスに投げ入れるようにしているそうです。子供たちのごみ分別教育にはぴったりの試みだと思いました。また,大型ボックスはとても目立っており,住民たちはボートでペットボトルを持ってきていつでも投入できるようになっています。ペットボトル収集者(コレクター)にとっても収集しやすいと考えられます。夜間の不審者による盗難は心配かもしれません。非常に分かりやすい有効な試みであり,視察したメンバーの関心は高かったです。


 小学校の横に置かれたPETボトル回収用のボート

[プラ資源化工場視察]

バッタンボン市内に行く途中でプラスチック袋のリサイクル工場を視察しました。プラスチック袋をリサイクル工場はカンボジアでこの工場のみだそうです。処理工程はシンプルで,収集したプラスチック袋を水で洗浄し,乾かした後,電気溶融炉に入れてとかし,プラスチックを直径5mm程度の紐状を引き出して,水槽でで冷却し,それを巻き上げつつ裁断してペレット状にしていました。種々の色の袋を混ぜて,できたペレットの色は黒色でした。カンボジア出身の経営者は韓国でプラスチックリサイクル工場で働き,その技術をこの工場で再現したということでした。PETボトル以外のプラスチックにこのプラスチック袋が多いので,この施設はリサイクルパスの1つになり得ると思われました。


プラスチック袋のリサイクル工場

[バッタンボン市の廃棄物マネジメント及び資源化構想]

バッタンボン市の職員から,同市の廃棄物マネジメントや将来の資源化構想についてのご講演を聴きました。バッタンボン市ではバイオマスのリサイクリングに力を入れていました。現在は家庭での分別は行われていませんが,将来は分別収集を行うとのことでした。


BTB市環境局課長の講演

[バッタンボン市のコンポスト工場とプラスチックごみ選別場の視察]

バッタンボン市の指し州処分場に隣接したコンポスト工場とプラスチック選別場を視察しました。 同市ではヨーロッパのNGO団体の支援を受けて,バイオマスのコンポスト処理を以前から進めており,その工場を視察しました。また,隣接してあったプラスチックごみの選別および梱包作業を行っている工場を視察しました。バッタンボン市では河川に上流から流れてくるプラスチックが川に堆積しており,川底をさらえて集まったプラスチックごみを洗浄,選別して梱包し,リサイクルする活動をしています。かなりのプラスチックごみが川に捨てられているようであり,トンレサップ湖周辺ではプラスチックごみの問題が深刻であることがわかりました。

バッタンバン市の最終処分場

最終処分場の横にあるコンポストヤード

[パットサンディ村に適したPETボトル分別・リサイクルシステムの討論会]

バッタンボン市の会場で,パットサンディ村のごみ分別・リサイクル戦略についてのミーティングを行いました。最初に教育啓発冊子について,詳しい講義を行いました。これは,分別推進チームのメンバーが各村の推進リーダーとして村民に指導していかなければならないためです。メンバーからは冊子の内容が難しいとの意見がありました。村民の学歴はほとんど小学校までであり,文字が読めない市民もいるため,内容は平易な方が良いという意見でした。啓発冊子をさらに読みやすい平易なものに改善してゆく必要があると思いました。また,1枚程度にまとめたものがあると良いとの意見をもらいました。平易なものとして子供用冊子を作成予定なので,適宜選択して活用してもらいたいと思います。
引き続き,パットサンディ村にふさわしい分別・リサイクルシステムについて討論しました。PETボトルをどのように収集するか,どのようなリサイクルルートに乗せるかを議論する予定でしたが,分別推進チームは村全体で分別を行うための組織作りに話しが集中しました。パットサンディ村コミューンに分別・リサイクルを進める組織を作ることが先決という考えです。議論は白熱し,最終的に各村から担当者を1名出し,まとめるリーダを1名,補佐する副リーダを2名を置く組織を設立することに決まりました。われわれとしては,方法ごみ分別・リサイクルの手順を決めてすぐにスタートできるものと思っていましたが,コンミューンとしては組織を決めてからの対応となるようです。このように,こちらで準備したものと現地の人々の意見が乖離することはこれまでにもありましたが,その度に現地の人々の考えや求めるものが明確になってくることと,本気で取り組もうとする熱意が伝わってきました。


パットサンディ村の分別・リサイクルを担当する組織の構成についての議論

このように、トンレサップ湖の北岸を巡る現地研修では、ジャンクショップへの聞き取り、近隣でのごみ分別活動、リサイクル工場や自治体の埋立処分場、リサイクル施設の視察などを行いました。最後のディスカッションでパットサンディ村のメンバー間で話し合った結果、村に分別・リサイクルの組織を正式に設立しようということになり,わたしたちはすこし予想外でした。分別進チームがコミューン代表者たちなので決めることができたわけです。代表者らは自分たちでプラスチックの分別・リサイクルシステムを作ろうと考えたのだと思います。

市民説明会の開催

2022年12月に,ごみ分別の必要性と分別方法について村民を集めて説明会を開催しました。コミューンの集会所を使って開催し,33名の村民が参加してくれました。熱心な参加者からは,PETボトル以外のプラスチックごみのリサイクルはしないのかという質問と,浮きのために使用するPETボトルについての質問を頂きました。前者については,プラスチック袋などのリサイクルも進めたいところですが,まずはリサイクルルートがあるPETボトルのリサイクルから始めることを回答しました。また後者は,この村ではPETボトルを釣り用の「浮き」として利用する人たちがPETボトルを集めているが,そのボトルは分別に出さなくて良いかという質問です。 これに対しては,浮きとして使用してもらって,使用後のものを分別に出して欲しいと回答しました。説明会の手ごたえから,村民の多くはプラスチックごみの分別・リサイクルは必要と思っており,どのような分別をするのか興味があると感じました。

  
    市民説明会の会場(コンミューン集会所)           雨季のためボートで集まる
  
    PETボトルの分別・リサイクルの説明                説明を聴く聴衆

クリーンナップイベントの開催

世界環境デーに近い6月3日に,パットサンダイ村でクリーンナップイベントを開催し,多くの小学生を含む約130人の村民が参加してくれました。朝からコミューン集会所の前に集まってもらい,進めようとしているPETボトル分別・リサイクルのプロジェクトについて紹介した後,全員でプラスチックごみの清掃を行いました。短時間でごみを入れた袋が数多く集まりました。それを皆で選別して,PETボトルは有効利用しました。

  
     クリーンナップイベントへのの参加者              説明を聞く参加者
  
       ごみを集めてきた学生たち                ごみの選別作業への協力

今後について

パットサンディ村で,PETボトル分別・リサイクルのための組織作りが進む予定であり,その組織が具体的な分別やリサイクルの手順を決める段階で,われわれがサポートできると考えています。予定では8月末までに分別を開始し,12月には家庭での分別がどの程度実行されているかや,村民の意識の変化などをアンケート調査したいと考えています。世界環境デーに違い6月3日に,パットサンダイ村でクリーンナップイベントを開催し,多くの小学生を含む約130人の村民が参加してくれました。朝からコミューン集会所の前に集まってもらい,進めようとしているPETボトル分別・リサイクルのプロジェクトについて紹介した後,全員でプラスチックごみの清掃を行いました。短時間でごみを入れた袋が数多く集まりました。それを皆で選別して,PETボトルは有効利用し,その他プラスチックは無償で引き取ってもらいました。

バナースペース

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